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​文乃に聞く

星の女子さんと廃墟文藝部、両劇団に出演経験があり、客演の実績も多い女優・伊藤文乃(オレンヂスタ所属)。劇作家・演出家である渡山博崇と斜田章大が、伊藤文乃に両劇団の作風や特徴など色々と話を聞いてみた。全3回。

連載第1回
伊藤文乃×斜田章大

斜田 はい、ということで対談みたいなんですけど。

伊藤 はい。対談、はい。

斜田 文乃さんは、色んな劇団の稽古場のこととか、雰囲気なんかを知ってらっしゃるんじゃないかと思うんですけど。せっかくこういう対談なんで、他の脚本家に比べてコンタはどうとか、他の劇団に比べて廃墟文藝部ってこういうとこあるよねということを話してもらえると、読んでる人も「廃墟文藝部観に行くぞ」ってなるんじゃないかなあと! おお、テンションあがってきたぞ。

伊藤 あがってるね。私そんなに客演先が多いわけじゃないんですけど、コンタの特徴だなって思うのは、悩み続けながら進み続けるところ。

斜田 ほう……他の人は違うんですか?

伊藤 自分の中に完成形を持ってる人が多い気がする。

斜田 フフフフ(笑い声)

伊藤 コンタは文章作品としての完成形は持ってる。演劇にするのに悩むのを、家でやってきたりしないで全部見せてくれるから、工程が私たちにもわかるっていう。

斜田 ダメ出しみたいになりましたね。

伊藤 違うよお。それの何が面白いかというと、作家の組み立てる構成とかにも、役者がちょっと食い込めること。

斜田 他の団体さんは……

伊藤 そこまで。他よりは食い込み度が高いと思う。採用してくれる度というか。そこまで取り入れてくれますかみたいな。

斜田 ここ大事なところで、熱く語っていいですか?

伊藤 どうぞ。

斜田 僕その傾向が昔からあったと思うんですけど、あるキッカケがあってからよりそういうことを意識するようになったことがあって。『小説家の檻』書いてるときくらいかな、円城塔っていう作家の本を読むようになって。それから、自分で作りすぎてもつまんないなって思う事が今まで以上に多くなって、作品作りっていうのは自分の頭の中で作るよりも、今ここにある環境の相互作用みたいな、関係性みたいなものを深めていくことによって作った方が、いいものができるんじゃないかなって。なので他の団体さんよりも稽古場で作品を作るって傾向が強いんじゃないかなと思います。

伊藤 なるほどね。確かに『MOON』と『慾望の華』の時よりも、『小説家の檻』と『アナウメ』の時が、その傾向が強い気がした。私が慣れてきて、じゃあグイグイ行こうってなったのかもしれないけど。

斜田 僕、たまに役者もやるんですけど、稽古場以外で台本読んだりして、こうかなって思ったことに固執し過ぎると、いい演技にならないことが多くないですか?

伊藤 うんうんうん。

斜田 相手の演技見て、そう来るならこうかなって、そこで実際に生まれる関係性みたいなのに乗って演技するとうまくいくことが多いなって。

伊藤 そうですね。

斜田 それをもうちょっと演出に広げたところでやれないかなあとか思っていて。脚本的にもそういうことが『小説の檻』くらいからテーマになっていて。(急に)文乃さん、気付いてますか?

伊藤 なんですか?

斜田 『小説家の檻』の主人公、なんだったか覚えてます?

伊藤 小説家。

斜田 『アナウメ』の主人公の職業はなんだと思います?

伊藤 小説家。

斜田 『ミナソコ』もねえ、小説家なんですよ。ずっと小説家なんですよ。

伊藤 そうねえ、文筆家というかね。

斜田 どうやって本を書くべきなのかってことが、3年間くらいずっと自分のテーマで。

伊藤 そうだね。

斜田 どうやって文字を生むかがずっと僕のテーマなので、結果的に主人公が小説家まわりのものになってる。

伊藤 やはり小説的な演劇作品というか。

斜田 一応劇団のテーマなので

伊藤 なるほど。

*****

斜田 せっかくなんで、これまで(廃墟文藝部で)やった役の話を。

伊藤 『MOON』のときは、本文中では明かされてないけど、きっと弁護士だろうなという女の人。次(慾望の華)は女子大生。兄嫁に恋をする女子大生。3作目が小説を書くAI。4作目が黒猫の幽霊。幽霊、幻覚? 半分人間じゃない……。

斜田 あの、熱く語っていいですか? えっと一個一個の役を熱く語りたいですけどいいですか?

伊藤 好きにして。

斜田 『MOON』の時はトモエさんて役で主人公についた弁護士、というキャラクターで。ちょっとサスペンス形式だったんですよね。

伊藤 はいはい。

斜田 弁護士が事件を起こした主人公や主人公の周りの人に話を聞いて、事件をお客さんと一緒に追っていくみたいな形で。物語の都合上、事件を過去の事件を語りながら追っていく未来の人間が必要だったということと、あと主人公のことを助けてくれるキャラがいないと、さすがに、ってのがあって。

伊藤 主人公、可哀そうだったもんね。

斜田 それで、なんか頭良さそうな人、みたいなところから、文乃さんへのオファーだった気がしてます。

伊藤 はじめて聞いた。

斜田 あとは真面目なイメージが、当時は。

伊藤 当時は。

斜田 今もありますけど。頭良さそうで、真面目なイメージが最初だったんですけど。『MOON』の後に、文乃さんはもっと違う色んな使い方があるはずだと。

伊藤 ほう。

斜田 次に出たのが、レズ女子大生。しかもファッションレズ女子大生なんですけど。

伊藤 そうだね。

斜田 主人公の蓮実君て男の子が好きになる女の人なんですけど、その女の人は兄嫁のことが好きなんですね。主人公は叶わぬ恋、この人も叶わぬ恋で片思いが連鎖する『ハチミツとクローバー』みたいな展開だったんですが、最後の方になってこの人、普通に彼氏作るんです。「私、男性が怖いの」って言ってて、主人公には、あまり男の子っぽくないから「はじめて怖くない男の子に出会ったわ」みたいに言っておきながら普通に彼氏作るっていう。

伊藤 クズってめっちゃ言われた、お客さんに。

斜田 フフフフ(笑い声)

伊藤 キレイな感じだったけど、あの人クズだなって。

斜田 僕は、あれはめっちゃハマり役だったんじゃないかと思ってるんですけど。どうですか?

伊藤 自分では悔いの残る役だったので。結局、表面をなぞるだけしか出来なかったなという後悔がずっと残ってる役でしたね。

斜田 はあはあ。

伊藤 『MOON』も割とそんな感じだったんですけど。

斜田 はあはあ。

伊藤 だから『小説家の檻』が一番気に入ってる。

斜田 『小説家の檻』は小説が全然書けない女の子が、機械に卒論を書かせて稼いでる男と出会って、一緒に究極の本を作ろうみたいな内容だったんですけど。文乃さんにやってもらったのは、小説を書くAIの役。人間じゃない役だったんですけど。

伊藤 めっちゃ考えた。すごい考えた、あの時は。

斜田 僕が文乃さんがいいなと思ってるところは、あんまり人間くさくないところで。

伊藤 ふふ(笑い声)そうね、ツバキさんの頃から言われてたわ。

斜田 よくよく知っていくと人間くさいところはいっぱいあるんですけど、あんまり人間くさいところを出したがらない人だってイメージがありますけどね。

伊藤 ほーう。まあ、それは他の人の判断にゆだねる所だとは思うけど。

斜田 じゃあ人間じゃない役をやらせてみたらどうなるんだと思ったんですけど。あれは大ヒットだしたね。

伊藤 私は楽しかったし、それこそ考えたことをコンタが結構組み入れてくれたので、すごい充実したというかやりがいがあったというか。

斜田 作中でどんどん貯まったお金をコンピューターにつぎ込んで、色んな本のデータをAIに蓄積して、AI自体が人間らしさを獲得していく内容だったので、文乃さんの演技もそれを組み込んでくれて。最初は胎児からスタートして、最後の方はだいぶ人間ぽい。

伊藤 でも心が芽生えたとか、そういうつもりにはしたくないって話をした。

斜田 そうそうそう。めっちゃ盛り上がった。

伊藤 盛り上がったね。

斜田 それはつまらないみたいな。

伊藤 そうそう。最後まで変化はないぞ、私には。ということでやった覚えがある。

斜田 機械が人間に似てくる話じゃなくて、人間の方がむしろ機械に似てくるような話で。

伊藤 メンヘラだねえ。

斜田 人間も機械もそう変わらないよね、というのが最近思ってることで。

伊藤 メンヘラというか中二病のような。

斜田 やめろ、その言葉はおれに効く。

伊藤 うふふふふふ(笑い声)

斜田 最後に『アナウメ』の話でも。

伊藤 『アナウメ』の時は、ぶっちゃけ居ても居なくても変わらなかったよね。見た目とか演劇としては変わるけど、ストーリーライン的には、居ても居なくても良かった感じが、すごく面白かった。

斜田 ほうほうほうほう。

伊藤 いい意味でお飾りだった。ユキネ以上に変化のない、人間度合いが更に下がった、一時間半立たせてもらえない、

斜田 一時間半、四足で移動するっていう。

伊藤 一時間半、舞台上でずっと四本足。立ったのは入ってくるときとカーテンコールのみ。

斜田 めっちゃ面白かったですね。

伊藤 膝パッドを何個使い潰したか。

斜田 ちょっと補足しておくと……お芝居って、AとBという人物がいたとしたら、お互いが影響を与え合ったりして物語が進んでいくというのが、教科書通りの書き方だと思うんですね。

伊藤 そう、ですね。基本だよね、教科書というか。

斜田 『アナウメ』ぐらいから思い始めたのは、人間はそんな変わらんやろっていう。

伊藤 ああ。

斜田 変わんないと物語になんないんですけど。

伊藤 でも『クリスマス・キャロル』とかスクルージが激変しすぎて笑えるなって思ってて、あのくらいいっちゃうと確かにやり過ぎだって思うよね。

斜田 僕は物語において、影響を受けなかった人とか、与えなかった人がいてもいいと思ってる派なんですけど。

伊藤 なるほどね。

斜田 文乃さんにやってもらったのは、主人公の罪悪感とか罪の象徴みたいな。ちっちゃい頃に見捨てて殺しちゃった猫が、ずっと主人公の側をうろついていて、ずっと見てくる、みたいな。

伊藤 うん。生き物度合いを更に失ったよ、私は。

斜田 言葉にするには難しいけど確実にある感覚みたいなものを、芸術家は音にしたり言葉にしたり絵にしたりすると思うんですが、その言葉にできないものを演劇的に可視化しようとしたら、気が付いたら文乃さんが猫になっていた。

伊藤 ふふふふ(笑い声)

斜田 最初は文乃さんが猫やったらめっちゃ可愛いんじゃねみたいなこと言ったら劇団員がめっちゃ見たいですうていうことを言っていたから、まあそんなところからなんですけど。

伊藤 はあ。誰だ、名前言っとけ。

斜田 ひかるですよね。

伊藤 ひかるかあ。

斜田 めっちゃ見たいですう、猫耳つけましょーみたいなことを。

伊藤 はははは(笑い声)それがあんなことにね。すごい鬱な作品でしたけど。

斜田 あんな鬱な作品になるとは。

伊藤 あれもyoutubeで公開されるんですか?

斜田 今作ってもらってるんで。

伊藤 ほう。

斜田 なんとか『ミナソコ』の本番の前にはね。

伊藤 期待大ですね。

斜田 文乃さんがめっちゃ体を削ってくれた黒猫の演技をね、みなさんよかったら観てください。

******

伊藤 『ミナソコ』では影響受ける受けないの話とか、見どころとか、考えてることはあるんですか?

斜田 ちゃんと脚本書いてる人から怒られそうなんですけど。

伊藤 ほう。

斜田 『ミナソコ』は館モノで、わりと普通な子がやべえ館にやってきて一か月暮らすみたいな内容なんですが、館の住人たちはみんな「おれの考えはこれ」っていうのが決まっていて、色んな事が起こるんですけど、誰も意思を曲げないっていうね。

伊藤 ふ(声にならない笑い)

斜田 物語にならないんですよね。めっちゃ面白いですよね。誰も意思を曲げない。

伊藤 それはそれで。

斜田 これは演劇として合ってるのかと思いながら脚本を書いてるわけですよね。稽古場に持ってきて、やらせてみると面白いんですよ。実際すごい面白いんですよ。でも演劇としてはめちゃくちゃ間違ってる気がするんですけど。

伊藤 キャスティングから想像すると、誰も意志曲げなそうっていう。

斜田 特に客演の人たち。

伊藤 そうね。

斜田 舞台上でなにも曲げないんですよ。

伊藤 正しいね。

斜田 私はこう、あなたはこう、それでいいじゃない。

伊藤 平和だなあ。

斜田 作品中に不穏な事いっぱい起こるんですけど、誰もねえ。

伊藤 動じない。

斜田 動じない。

伊藤 あはははは(笑い声)

斜田 嫌いな言葉があって。高校演劇やってた時に「一時間の物語があったら、最初と最後で主人公の気持ちやなにかが変わるべきだ」っていうのを聞いて。

伊藤 あるね、そういう考え方。

斜田 聞いた時はなるほどねって思ったんですが、なんか違う気がしていて。

伊藤 うんうん。

斜田 結論から言えば、人間の気持ちは一時間で変わらないし、ていうか気持ちは変わらないし、変わったというのは幻覚というのはあれだけど勘違いみたいなところもあるし、そもそも気持ちという存在も勘違いみたいなところもあるし。そんな簡単に書けるもん書いても仕方ないだろうという気持ちもあるし。

伊藤 ほう。

斜田 僕はそんな簡単に書けるものが書きたいわけじゃないんですよ。わかりますかね、僕はそんな簡単に書けるものが書きたいんじゃないんだよ、文乃、さん。

伊藤 あはははははは(笑い声)

斜田 という感じで模索しているので。

伊藤 はい。

斜田 第6回公演がもしあったらね、また一緒に模索してもらったら、僕は嬉しいですけど。

伊藤 次は渡山さんより先に声をかけてください。

斜田 来年秋とかですかね。

伊藤 なんとなく覚えとく。

 

第2回へつづく↓

連載第1回 伊藤文乃×斜田章大
連載第2回 伊藤文乃×渡山博崇
連載第2回
伊藤文乃×渡山博崇

渡山 あらためまして渡山です。よろしくお願いします。

伊藤 伊藤文乃です。よろしくお願いします。

渡山 文乃さんがうち(星の女子さん)に出演することになった経緯から話していきましょうか。

伊藤 はい。

渡山 最初はオーディションだっけ。

伊藤 そうです。『トゥルムホッホ』※1のオーディションで。オーディションの頃は仮タイトルでしたよね。『名前のない国の話』でしたっけ。あれも好きだったんだけどな。※2

渡山 忘れちゃった。なんでオーディション来てくれたんですか?

伊藤 えっと、『カナドール』※3は観ていて。所属している岡本さんや、亜由子さん棚橋さんはすごい女優だと思うんです。その人たちがホームとして選んだ星の女子さんって劇団はすごいところなんじゃないかなって、応募したんです。

渡山 あの時は20人近くオーディションに来てくれて。

伊藤 はい。

渡山 キャスティングは組み合わせが一番大事なんですね。

伊藤 ああ。

渡山 役者それぞれの技量だとか声が凄くいいとかキャラクター性があるとか、それよりもどう組み合わせたら面白いかを重視して選ばせてもらったんです。

伊藤 バランスというか。

渡山 文乃さんは舞台で拝見したことがあって、まっすぐな人というイメージなんです。

伊藤 ほ、ほう。

渡山 台詞が直線的に、パツーンと当たってくるというか。

伊藤 それは、なんとなくわかります。

渡山 だから攻撃力の強い人だと思ってて。

伊藤 あはは(笑い声)

渡山 オーディション中の様子を見ていると、進行がスムーズにいくように気をまわしてるなとか、要は面倒見のよい人だなと思ったんです。

伊藤 それ後で言われたのを覚えてますよ。ツイッターの役者紹介でも、「思ったより面倒見がいい」って。

渡山 それで、他に目を付けた役者が、まだ若かったり、独自性が高かったりしたので、まとめて面倒見てもらおうかなと思って。

伊藤 組み合わせって、そういうことですか?!

渡山 まあそれは冗談ですけど。次は『ハハチチ』※4でしたかね。

伊藤 えっと、半年後でしたね。

渡山 これは急に来た企画で、おっぱいをテーマに短編を書いてくれと言われて。

伊藤 はい。

渡山 下ネタにはするまいと思ってたら、母乳とかどうですかって意見をもらえたので、そこから母乳を与えられなかった子共たちのネグレクトの話になりました。文乃さんに依頼したのが、小学生・姉の役。

伊藤 (題材が)ネグレクトだからしんどかったけど、役者として考えるのは楽しかったです。

渡山 そして今回(『うつくしい生活』)で三回目の出演となるわけですが、星の女子さんとか、僕の作品について今、どんなイメージをお持ちですか?

伊藤 絵本ぽいというか。大真面目にシュールなところがすごい面白い。言葉遊びがすごく印象深くて、『トゥルムホッホ』のときに「いる」「いない」のくだりとか。『音子はつらいよ』※5を観たら「兄さんはいるとされているわ」という台詞が忘れられなくって。

渡山 「兄さんはいるとされているわ」という台詞で、急に死者と生者の境界線が曖昧になるというか、話がズレるんですね。

伊藤 別のシーンでも「(兄さんは)ここにいるとしましょう」という台詞で、本来いないはずの時間軸に「はいはーい」って出て来ちゃうのがすごく面白くて。

渡山 言葉の力で空間をねじまげるってことをやってたんです。

伊藤 そういう発想があるんだというか。面白い視点をくれる。

渡山 だいたい別役実から学んだことですね。

伊藤 別役実は高校生のときに読んで「わかんない」って印象で。また読んでみます。

渡山 別役さんの『雛』という作品で、雛飾りのある部屋に姉妹がいるんですけど、ひとりが父親の看病のために部屋を出て、その後戻ってきたら「お父様の三周忌ね」なんて喋って、時間がボーンと飛ぶんですよ。そういう演劇ならではのトリックというのがすごく参考になってて。

伊藤 なるほど。

渡山 そういうことしていたら、いつの間にか不条理劇を書く人だと思われている。

伊藤 不条理、でも渡山さんの作品はとっつきやすい気がする。不条理劇っていうとなんかこう、自分勝手な人が出てきて、自分ルールで押し切ってみたいなイメージになっちゃうんですよ、どうも。やだなって。星の女子さんはうまくカムフラージュしてるのか、全員が変なルール持ってるからなのか、スムーズにイライラせずに観れるんですよ。

渡山 佃典彦さんに聞いた話だと、佃さんは竹内銃一郎さんから聞いたと言ってましたが、不条理劇には2種類あると言うんです。

伊藤 はい。

渡山 ありえないことが起こる、というのがひとつ。もうひとつは独自のルールを持ってる人がいて、その人にはわかるけど他の人にはわからない、ということで話が進んでいく。

伊藤 はいはいはい。

渡山 不条理劇がとっつきにくいというのは、大体、その変なルールを持った人の押しが強すぎて、巻き込まれる普通の人がかわいそうになって、観ていていたたまれない気持ちになるっていう。それを嫌がる人がいる。

伊藤 私、そのタイプですね。

渡山 授業でそういう作品を見せると「僕はこれ、笑えません」という学生はいる。

伊藤 私、めっちゃそのタイプです。

渡山 まあ感想はねえ、それぞれだから。

伊藤 好みと、それを見るための基礎教養みたいなのがいるのかなって。そのあたり、星の女子さんはとっつきやすい。

渡山 それはね、今の時代だからだと思うんですね。

伊藤 ああ。

渡山 同じ時代で、同じ社会のバックボーンを背負ったうえで観られるから。ニュアンスが分かりあえる。

伊藤 確かに。今の人たちにわかるネタというか。

渡山 80年代の別役作品とかね、その時代背景をわかるといろいろ納得できるというか、考えると面白いんですけど。

伊藤 時代はありますよね、どうしても。

渡山 さて。ここまで戯曲についての話だったかなと思うんですけど、演出についてはどうでしょう?

伊藤 渡山さんの演出は、ロジカルな答えが用意されている。話を聞いてると、その発想はなかったけど、なるほどという感じのやつが多いです。気づけなかった私はポンコツだ、ってなるやつじゃなくて「マジか」ってなる類の、

渡山 気付くわけねえだろ、という。

伊藤 でも言われて見れば納得の、確かにそれすごく面白いっていうロジックがあるなと。

渡山 うん。さっきの不条理劇の話じゃないけど、僕自身がね、僕には通るけど他人にはまったく通らない理屈を持ってるんです。

伊藤 ああ。

渡山 僕からすると、なんでわかんないの? となる。

伊藤 あはははは(笑い声)

渡山 長らく自覚がなかった。他人からすると、わからないよというのが、つくづくわかりまして。

伊藤 不条理劇の登場人物みたいですね。

渡山 まあそれで、わかってもらうにはロジカルなところが必要だなって。今回の『うつくしい生活』はわりと理詰めで考えたところがあるので、役者も考えれば考えるほど、納得してさらに発展してもらえると思うのですが。

伊藤 めっちゃそう思います。掘り甲斐がありすぎて、今時間が足りない。次の稽古までに考えてきたい分量が多すぎて、ちょっと追いついてなくて。

渡山 やることが多くて、過酷なんだよね、役者からすると。

伊藤 読みたいなというワクワクがあります。

渡山 あなたの役は、ドラマチックで、やることが多いよね。

伊藤 みんなそうだと思います。それぞれのドラマが濃い。

渡山 大変だと思いますが、がんばってください。

伊藤 はい、がんばりますよ。

【注釈】

※1 星の女子さん⑩『トゥルムホッホ』2016年5月上演

※2 『あまり知られていない国の名前』(仮題)

※3 星の女子さん⑧『カナドール』2015年5月上演

※4 つねプロデュース「ONNA」参加作品 『ハハチチ』2016年10月上演

※5 星の女子さん⑪『音子はつらいよ~タイガー・カーの数奇な冒険~』2016年1月上演

 

第3回へつづく(作成中)

連載第3回
伊藤文乃×斜田章大×渡山博崇

伊藤 廃墟文藝部が小説って感じで、星の女子さんが絵本とかのイメージが強いなって、誰かと喋ってて、絵本、なるほどって。誰と喋ってたのか忘れちゃったけど、童話感が強いなって。

渡山 僕は、お話はなんでもありでいいじゃないかと。おとぎ話はジャンルフリーでなにが起こってもいいし、なにが起こっても受け入れられるじゃないですか。

伊藤 そうですね。

渡山 それこそソーセージが普通に話しても構わないし。その自由さが好きで、基本的に自分はおとぎ話を書いてるつもりなんですね。

伊藤 そうですね。メルヘン劇団って、ずっとコンセプトですもんね。

斜田 そしてうちはメンヘラ劇団としてずっとやってます。

伊藤 そう、ずっとやってるよね。うふふふふふふ(笑い声) すげえキリッとした顔で言うなあ。

渡山 りりしかったね。

斜田 メンヘラを導く使命があると思って。

伊藤 どこに導くの? 井戸の底?

斜田 楽しく生きられる世界に。

伊藤渡山 あははははは(笑い声)

斜田 あなたがあなたのままで認められる世界に。

渡山 なるほどね。

斜田 あははははははは(笑い声)

伊藤 自分で爆笑してどうするよ。

渡山 メンヘラの自由な国を作るんだ。国を作る話、書いたら。

伊藤 『トゥルムホッホ』じゃないですか。

斜田 家賃は払わない。

伊藤 家賃のない国。

渡山 家賃はね、僕ずっとこだわってるんです。※1

伊藤 そうですよね。

斜田 あれは『RENT』※2 からですか?

渡山 『RENT』もあるんですけど、それを観る前に聞いた言葉があって。アメリカの某芸術家が「芸術家はみんな一生家賃に悩んでろ。芸術家とはそういうもんだ」って言い切ってて。※3

伊藤 ほう。

渡山 それ聞いて感動したんですよ。一生家賃に苦しんでても、いいんだって思って。

伊藤 いいのかなあ。

渡山 そういう生き方を肯定してくれるっていうのがね。しかも当事者だし、それ言った人も。

伊藤 ああ、そうですね。

渡山 さっきコンタくんも言った『RENT』ってミュージカル。家賃に困ってる人たちの話。

伊藤 はい。

渡山 それがね、僕はすごく楽しいなって。

斜田 映画を観たことがあるんですけど。すげえかっこいい音楽がはじまったと思ったら「家賃を払わない」って歌を。

伊藤渡山 あはははは(笑い声)

斜田 めっちゃおもしれえって思って。そんなに熱く、家賃を払いたくないんだって。稼げよ。

伊藤 それでいくとコンタはなにかこだわってるネタというか、なにかあるかなあ?

渡山 小説家が絶対出てくるとか?

斜田 そうですね、『小説家の檻』※4 以降からこだわってるのは「書けないものをどうしたら書けるようになるか」。

伊藤 ああ。

斜田 というか、そもそも文字とはなにか、みたいな事からずっと考えてるんですけど。それ以上前からずっと思ってることに関しては、罪とはなにか。なんで常にこんな罪悪感を抱いているのか、俺たちはみたいな。いや、抱いてない人もいると思うんですが。

伊藤 メンヘラ劇団的にはね。

斜田 メンヘラ劇団的には、なんでこんなに生きてるだけで許されてないのって言ってて恥ずかしくなってきた。

渡山 それはわかりますよ、やっぱり。

斜田 なんで生きてるだけで許されてない感じがあるんだろ、その感覚みたいなのを書きたいってのはあります。

渡山 『怪盗パン』※5 を今度やってくれるじゃないですか。

斜田 はい。

渡山 『怪盗パン』は、ただ生きたいというだけで罪になってしまった人は、それはなんの罪なのか。罪とはなんだってことを結構考えて。罪とはなんだってのは、原罪とか、キリスト教の世界にも突っ込んでいってしまうんですけど。

伊藤 確かに。

渡山 神の愛みたいな話になっていくのかもしれないですけど。僕ら言うてもキリスト教徒ではないので。

伊藤 そうですね。

渡山 それ以外のアプローチをできないかって……泥棒ってモチーフに行ったんですけど。コンタ君は罪の意識とかを仮託するキャラクターとかあるんですか? 役柄とか。

斜田 役柄。結局だいたい主人公に背負ってもらうことが多いですけど。

渡山 うん。

斜田 罪とはなに、って話になっていくと結局「命と性」に落ち着くことが多くて。

伊藤 はあはあ。

斜田 誰かが死んだ原因になってるか、あるいは自分の性欲みたいなのが原因になってることが多い。まあ性と生死ってのはどうしても結びつくものなので。セックスないと人間生まれないからみたいな。なんであんなに舞台上でセックスのシーンが出てくるかなってのは……。

伊藤 そうねえ。

斜田 シーンはあんま出てこない、単語は出てくるみたいな感じはありますけど。

伊藤 そうねえ。『小説家の檻』は(そういうのが)なくってピュアだったな。ピュアというかなんというか。

斜田 ピュアピュアでしたね。

渡山 僕が初めて観たのは『MOON』※6 かな。騎乗位してたもんね。

伊藤 あははは。(笑い声)してた。あったあった。

斜田 「姉さんは僕の上で腰を振りながら」って書きました。

伊藤 割と直球で書いてたよね。

渡山 文乃さんはそういうエロい感じを背負わされたことなかったんだっけ。

斜田 えっとチューのシーンは書いたことあります。

伊藤 女子大生の兄嫁とキスする妄想みたいな。で、ちょっと脱がされる。

斜田 YOUTUBEで観ることができます。『慾望の華』※7 で検索してもらえると。

*****

 

伊藤 そういえばちょっと聞いてみたかったんですけど。

斜田 おお。

伊藤 コンタは書くときによく「その人本人を知らないと書けない」って言うじゃないですか。

斜田 言いますね。

伊藤 で、渡山さんどうなのかなって思って。どういう感じで考えて書くのかなって。あてがきのとき。

斜田 それは僕も聞きたいです。

渡山 えー。勝手なイメージ?

伊藤 ははははは(笑い声)

斜田 勝手なイメージ、大事ですよね。

渡山 うん。

伊藤 それとギャップとか、もうちょっと裏面を書きたいと、コンタはもうちょっとその人本人を知りたいとなっていくのかなあって思ってるんだけど、そういうことなの?

斜田 熱く語ってしまうと、まずお客さんが観るのは表層じゃないですか。

伊藤 外見とかのね。

斜田 文乃さんを初見で見るお客さんは、初見で見たら「なんか美人な女の子が来たぞ」とみたいなことから始まって、年齢は20代の後半くらいに見えるんですかね。黒髪ロングで色白や、みたいな感じから始まって、多分、清楚キャラやなとか、ぱっと見た感じ多分まじめキャラやなとか、そういう感じで来るじゃないですか。であれば、それを想定して書くべきだと思うんですよね。とりあえずこの人はそういうふうに見えることを前提として出すべきであって、ただ物語においては、特に中心になる人物においてはそのまま書いたらつまらないことが多いので、物語性みたいなのを匂わせるのであれば、そこから、そうじゃないものがどう滲み出すかキーになってくると思うんですけど、滲み出される本音、本質は、その人にしか分からないので、その人の考えとか、ガチでどう思ってるのかとかを聞きたいってのもあるんですけど、まあでも結局自分が書けないからですよね。自分が書けないから人の話聞いて無理矢理書いてるみたいなところがありますけど。

渡山 イメージを利用する、じゃないけど。

斜田 はい。

渡山 それは有効なアプローチですよね。

伊藤 それはそれであるなと思うけど。『慾望の華』のときはコンタと合計10時間くらいファミレスで喋り続けて「わかんないわかんない」ってずっと言われて。

渡山 えー。

斜田 カフェを3軒くらいハシゴして。

伊藤 というのを、あてがきする人として見てきたので、渡山さんだと、稽古参加する頃には全部書きあがっている人だとどういうふうに書かれてるのかなあと思いまして。

渡山 そうねえ。昔は、それこそ、その人を知っていて、その人はこういうふうに書かれたら嫌だろうなとかコンプレックスこうだろうなとか、いうことをわざわざ書いていたので。

伊藤 ほーう。

渡山 みんなすごく嫌そうだった。

伊藤 あはははは(笑い声)それはつまり、もう内面を知ってる人を、出てもらうために書くことが多かったと。

渡山 ええと、たまたま「こういうの苦手なんだよね」という話とかそういうとこから拾っちゃうんですよね。

伊藤 なるほど。

渡山 で想像して。多分この人はこういう心情があって、こういうことがお嫌だろうなとか。面倒見がいいという他人からのイメージを嫌ってる人にお母さんの役をやらせたりとか。賢そうに振る舞う人に白痴の役やらせたりだとか。

伊藤 うふふふふ(笑い声)

斜田 ひょっとして性格が悪いのでは?

渡山 うん。でも俳優が1番見せたくないとこを見せることによって、お客さんは「よくぞそれを見せてくれた」って思ってくれるんじゃないかなって。

伊藤 ないわけではないですよね、そういうとこ。

渡山 本当のとこというか、コアなところを見せられてゾワッっとする感覚を、演劇の中で1番強い武器だと信じていたので。そのときはとにかく、そんなことばっかり考えてたから、あのー……どんどん嫌われてった。

伊藤 結構ひどい書き方ですねえ。

渡山 あるとき、これは駄目だと思って。

伊藤 あははははは(笑い声)

渡山 誰も幸せにならないんじゃないかと思って。ただおもしろいって思ったことを書こうとするんですけど、元々そういうのがおもしろいと思うタチなので、無意識で書いたことが、もしかしてこれあの人の弱点とかじゃないかなあとか嫌がってないかなあとか、気になっちゃって。こっそり聞きに行くとかして。

伊藤 今回(『うつくしい生活』)、小説家志望の役ですけど。

渡山 はい。

伊藤 本当に小説家志望の人じゃないよねって、渡山さんから聞かれたってコンタが言ってましたよ。

斜田 言いましたね、そういえば。

渡山 小説家を目指して挫折した経験があったら、傷口を抉るようなシーンがあるんですけど。

伊藤 そうですね。

渡山 そういうことがあったとしても、役者さんはその経験を使ってやってくれよと思うんですけど。多くの人はそうじゃなくて。嫌な気分になって、その芝居はできないってことになりがちなんですね。

斜田 そんなことあります?

渡山 あるある。相当嫌だったんでしょうね。

伊藤 本当に嫌だったら、確かにできないかもしれませんね。

渡山 そういうことない方が面倒くさくなくていいなって。

伊藤 今だと、イメージとかで書くのが強くなってる?

渡山 組み合わせかなあ。

伊藤 ああ。

渡山 メインキャストが3人いるとしましょう。どういう組み合わせがいいか。ます友情があるといい。友情が壊れたり壊れなかったりする話がいい。

伊藤 あ、今回の。(『うつくしい生活』)

渡山 うん。

伊藤 お話からスタートしたんじゃなかったんですね?

渡山 お話もあるけど、そういうのって結びつくじゃないですか。

伊藤 ああ、そうですね。

渡山 遠いとこにあったイメージがパーンてやってきて結びついたらこれになった。でもキャラクター性とかは特に考えてなくて。必要だから書いた。

伊藤 ああ。

渡山 今回の役のまっすぐで責任感強そうな感じは、文乃さんかなとか。当てはめ方はしますけどね。書き方にメソッドあるわけでもなく、方法論探しながら作りながらって感じですけどね。

 

*****

 

渡山 僕とコンタ君ばかり喋ってるね。

伊藤 聞いてください。

斜田 好きな食べ物なんですか?

伊藤 アメリカンチェリーです。

渡山 文乃さんのこと、ほとんど知らないなそういえば。

伊藤 星の女子さんは稽古後飲みに行かないですよね、あんまり。

渡山 稽古でも私語が少ない。役者同士では話してるかもしれないけど。コンタくんの知る文乃さんはどんな人?

斜田 待ってくださいね……。

伊藤 まとめようとしている。

渡山 じゃあその間に。なにが嫌いですか?

伊藤 虫ですね。虫系ほんと駄目。

渡山 蚊とか。

伊藤 すごく駄目です。

渡山 蜘蛛とか。

伊藤 蜘蛛まだましですね。

渡山 蜘蛛はましなのね。

伊藤 蜘蛛はましで、軟体動物系が駄目。なめくじとか、ああいう系。

渡山 足のあるやつとないやつで好き嫌いが分かれてる?

伊藤 百足はまじ無理です。虫偏がつく生き物はだいたい駄目と思ってもらえれば。

渡山 蜘蛛はいいのか……ほかの虫食べてくれるから? 

伊藤 動きが予測できる。

渡山 はあはあ。

伊藤 飛ばれるとどこ行くかわかんないじゃないですか。

渡山 うんうん。

伊藤 蜘蛛はよけれる。今気づいたんですけど。

渡山 へえ。

伊藤 見た目が気持ち悪いとかあるんですけど、そういえば予測不能でどこ行くんだお前ってなるのがすごい嫌ですね。

渡山 なるほど。

斜田 蜘蛛ってちっちゃいですからね。

伊藤 ちっちゃくても嫌いなものはすごく嫌いだから。

渡山 奄美大島には大女郎蜘蛛っていうのがいて。こぶし大くらいデカイのがいる。

伊藤 へーえ!

渡山 めっちゃ虫獲ってくれるからありがてえんですけどね。人間てさ、未知のものが怖かったり、不安になって嫌いになったりするじゃない? 予測ができるからまだまし、ってのはおもしろいよね。

伊藤 さっき話して、はじめて気づきました。予測できても芋虫とかなめくじはもっと駄目なんですけどね。

斜田 ヒロインのポジションだったのでちゃんと話しましょうって10時間くらい話したんですけど、その時にたびたび言ってたのが「わからないものがこわい。わからないものを遠ざけたい」。

伊藤 ああ、言ってたわ、そういえばあった。そんな話したね。

斜田 なので『慾望の華』のときはそこを結構大事に書いたんですね。

伊藤 男の子がわからないからこわい、みたいな話だった。

渡山 なるほど。

伊藤 虫にまで適応されるのか。マジか。おもしろいね。

斜田 文乃さんに関しては怖がりなイメージありますね。

伊藤 ほう。

斜田 あと昔に比べたら大分なくなったんですけど、自信がないイメージがあります。

伊藤 そうだね。それ結構言われる。

渡山 へー。

伊藤 こないだ鳥公園さんのリーディング※8 に出たときに自己肯定感の話になって。私めっちゃ自己肯定感ありますよって言ったら「えー!」言われて。そんなにないイメージですかと。

斜田 ありますよって言ったんですか。

伊藤 言った。でも自分でも「えー」って言われるのはちょっとわかってて。自分は、私は私を無条件に良いと思ってるんだけど、それは他人が持っている基準ではないってのをわかってるんで。自分は自分だから自分にとっては良いけど、他人にとっては他人だから、それは評価しなくて当たり前だわなあってなってるので。

渡山 まあ自己肯定感だから。

伊藤 そう。自己肯定だから他人から評価されてる感は別にない。

斜田 やっぱりあなたおもしろいですね。

伊藤 そう?

渡山 ひとに評価されなくても平気?

伊藤 んーーとーー。多分、けなされなければ、まあまあ平気なんじゃないかな。でもありがたいことにそこそこ評価いただくので。

渡山 自己評価も強化されていく。

伊藤 かもしれない。ふふふふふ(笑い声)まわりに恵まれているので。

渡山 僕、クソ偏見かもしれないですけど。

伊藤 はい、

渡山 小学生、中学生くらいで、自己肯定の基本方針を決めていくと思うんですね。決まっていくというか。

伊藤 はいはい。

渡山 たいがいスポーツ出来るとか、容姿がいいとか、なにかひとにチヤホヤされた経験、認められた経験がある人ほど、自己肯定感を疑問なく、すっと受け入れていく。

伊藤 わかります。

渡山 そういう人は大人になっても感じが良かったり、他人との壁が薄かったり、卑屈なところがなかったりすると思うんです。

伊藤 卑屈だってよく言われます。他人からの評価はそうではないって話をしたら、そういうことなら自己評価が高いと言い出すのも納得だ、と言われて。

渡山 自分で自分を認める基準だけはつくっておいて、それを他人がどう評価しようが、基本的には構わない?

伊藤 構いますけど。

渡山 構うんだ。

伊藤 そこは相手の問題だから、私がどうこうできることではないなと思っている。

渡山 自分と相手がはっきりと分かれている。

伊藤 そうですね。そんな感じかも。

渡山 個人としてきちんと自立してるんですね。

伊藤 親の教育とかもあるんでしょうけど。うち、すごいいい親だと、私は思っていて。

渡山 うんうん。

伊藤 ただ親も人付き合いが得意なわけでは、きっとないんですよね。大人になってよく見ると。どっちかと言うと外向的ではない方向に行くのも、むべなるかなと

斜田 日常会話で、むべなるかなという表現が出てくるとは思わなかったですね。

伊藤 うふふふふふ(笑い声)私、古くさい言い回し好きで。すごい好きで。

渡山 むべなるかな。

伊藤 今自分で言って、さすがにあんま言わねえなって思ったよ。

渡山 なんかね、僕とか、あと勝手なイメージだとコンタくんとかも、10代の頃、そういう自己肯定感をこじらせまくったにおいを感じるんですよね。

斜田 すごいですね。勝手に仲間に入れられた。

渡山 勝手に仲間に入れちゃった。

斜田 どうするんですか、僕がめっちゃクラスの中心的存在だったら。

伊藤 あはははははは(笑い声)

斜田 僕、生徒会とかやってましたからね。

渡山 コンタ君はさ、謎なんだよ、そこらへんが。

斜田 ふふふふ(笑い声)

渡山 こじらせてる気配は強いのに、めっちゃ社交的だし。

伊藤 そうなの。

渡山 いろんな人に話しかけて、結構人気者だし。

伊藤 そうなんですよ。

渡山 なんでそんなことができるんだ。

全員 (笑い声)

伊藤 こいつの場合、頭いいんだと思うんですよ。クレバー。

渡山 自分のことがわかってて、どうしたら自分を魅力的になるかってこともきちんと考えてやれる頭のよさが。

伊藤 そう、すごい頭いい奴だなって感じがする。

渡山 最初、雰囲気だけ見て仲間かなってそそっと近づいていくと、なんかすごいリア充感出てきて、裏切り者!って。

斜田 自分でも言っててよくわかんないんですけど、僕、小中クッソいじめられっ子だったんですよ。

渡山 ほう。

斜田 クッソいじめられっ子だったんですけど、なんか知らないけど、生徒会とかの選挙に出ると、必ず勝つんです。

全員 (笑い声)

渡山 なんでだ。

斜田 わからないですけど。結構ひどいいじめとかあったんですけど、殴られたり蹴られたりとか。

伊藤 えー!

斜田 けどなんか、人気投票みたいなものになると必ず勝つ。

渡山 不思議だねえ。

伊藤 おもしろいね。がんばったんだ。

斜田 わかんないですけど。この年になっても色んなところで「お前のことは嫌いだ」なんて言われるんですけど。

伊藤 えー。

斜田 結構つらい仕打ちも合うんですけど、好かれる人には好かれる。自分は肯定するべきなのか肯定しないでおいた方がいいのか、よく……いやだから多分、躁鬱病なんですよね。躁と鬱だぜ、みたいな。

伊藤 二極ななにかが。

斜田 二極で生きている。

伊藤 それが別にテンションとかそういうところではないっていうのがおもしろいね、君は。

斜田 あなたは知ってると思いますけど、僕なんかひどい時はひどいですよね、テンションの上がり下がりが。

伊藤 まあね。でも上がってる時は、君が思ってるほど上がって見えてないのかもしれないよ。

斜田 そういうことですか?

伊藤 いるじゃん、なんか笑顔にしてるはずなのに無表情に見える系の人とか。君の上がってるは、あまり上がってるに見えない。

斜田 マジか。

伊藤 比較的無表情でくるくる回っているじゃない。上がってるのかよくわからないことしてるなってなるよ。

斜田 くるくる回りながら無表情でいるわ、俺。

渡山 なるほどねー。

伊藤 上がってるらしいけど、上がってるんだなあ? ってなるじゃん、これ。

渡山 コンタ君は独自の世界観があるよね。だから無表情で色んなことできる。ブレないから平気なんだよね。

斜田 全然平気じゃないですよ。

渡山 あはははははは(笑い声)

斜田 性格変わるポイントってみなさん、ありませんかね? 僕いくつかあったんですよ。

伊藤 今までの人生でのターニングポイント?

斜田 性格ががつっと変わった瞬間みたいなの。

伊藤 あるねえ。

斜田 僕は保育園の頃は、母親がかなり溺愛して、お前は天才だって言いながら育ててくれるような親だったんで、いやマジで天才かもしれんと思って。『よつばと!』※9 くらいに自己肯定感持って生きてたら、小学校に入ったらめっちゃいじめられて、そうか、自分のこと褒めてたら怒られるんだ、みんなそんなことを言ってる奴は嫌いなんだって。突然すごい暗い子になったんですね。全然喋んなかったんですけど、友だちとかも全然いなかったんですけど、小学校4年生くらいの時に、ひょっとして喋ってもいいんじゃないかって思ったら、まあまあ人気者になれたんです。

伊藤 生徒会で勝てるくらい。

斜田 その時に児童会とかやったんですよ。で中学校で、自己肯定感あったまま行けるじゃんと思って初日でガーンて入ったらガーンていじめられて。やっぱだめだ! みたいな感じになって。

伊藤 浮き沈み(笑い声)

斜田 感じになったんですけど、中二でやっぱ生徒会やりたいなと思って選挙に出たらなぜか通るっていう。

渡山 ほーう。

斜田 しかも大差で勝つ、っていう。

伊藤 すごいね。

斜田 昔から選挙だけ強いんですけど。

伊藤 漫画のような。

斜田 中高は大人しくしてようと思ったんですよ。大人しくしていて、大学に入って大人しくしてたら駄目じゃないですか。大学で大人しくしてると友だちが0人になるんですよ。

伊藤 そうだね。

斜田 マジで0だったんです。

伊藤 クラスがないからね。サークルとかなんかちゃんと繋がり自分でつくろってしないと。

斜田 だから「バッカスの水族館」※10 の後輩に、ひとりで飯食ってるところを見られて指さされて笑われたりしてたんですけど。ファミマのイートインでひとりで食ってるところを「ははは」って笑われて。

全員 (笑い声)

斜田 や、なんか、大学は演劇を始めてからガツッと変わって。割と何回か性格がガツッと変わってる。

伊藤 振れ幅が大きいんだね、君は。

斜田 人生の振れ幅が大きい。

伊藤 テンションを含め。

斜田 そう。そう。そうなんですよ、実は。今はテンション高いです。

渡山 そっかそっか。

伊藤 そう思うと渡山さんがめちゃめちゃ謎です。

渡山 僕ねえ、中学校行ってないんですよ、半分くらい。

伊藤 ほう。

渡山 今で言う、引きこもり。当時はそんな言葉なくて不登校って言われてたんだけど。特にいじめられたとかじゃなくて、転校を機に面倒くさくなって行かなくなったのね。

伊藤 おお。面倒くさくなって。

斜田 すげえこと言ってやがる。

渡山 最初、勉強がわかんなかったの。転校してすぐ一週間くらい風邪で休んじゃって。勉強わかんないわ親しい奴もいないわ、なんかつまんねえなーって家で寝てたら、いつの間にか1年半、そのまま学校行かなくなっちゃった。

伊藤 すげえ。

渡山 高校は行ったんですけど、そのときにまわりにいた同級生がオタクとヤンキー。不良ばっかで。定時制高校だったんです、夜間の。不良とオタクって当時、社会のはみ出し者なわけですよ。人生のメインストリートを歩いてない人たち。そういう環境で、オタクと不良の両方の属性を持って育っていったんですね。

斜田 不良だったんですか?

伊藤 渡山さんが?

斜田 全然想像つかない。

渡山 電話ボックス蹴りながらワイン飲みながら。

伊藤 えー!

斜田 なに蹴りながらって言いました?

渡山 町歩きながら、安いワイン飲みながら、わははと笑いながら、電話ボックスを蹴りまくって。

伊藤 えー!

斜田 そんな世紀末な人います?

渡山 まあ世紀末ぐらいだったよ、だいたい。ノストラダムスくらい。(90年代末)

伊藤 へー。

渡山 一方で、アニメを愛し、ラノベを愛し。

斜田 当時ラノベありました?

渡山 ラノベという呼び方はなかったです。角川スニーカー文庫って呼んでた。

伊藤 はいはい。

斜田 『スレイヤーズ』とかの時代?

渡山 そうそう。そういう時代。

斜田 『ブギーポップ』出る前くらいですよね。

渡山 ファンタジー小説とアニメや声優さんとかを趣味として、友だちはほとんど不良とオタクって環境だったので、メインストリートはずれてるなあって。小学生のときの夢が「小説家になって肺病で40くらいで死ぬ」ことだったの。

伊藤 おおう。

渡山 売れない小説家。

伊藤 はいはい。

渡山 これはもうマストで。ちょうどいいやと思って。いずれそうなろうと。ただアニメが好きだ。吹き替えがおもしろいってんで、声優学校行ったんですよ。

伊藤 ほうほうほう。

渡山 そこで、はせさんに会って。※11 講師だったんですよ。そこからずぶずぶと演劇の道に。

伊藤 肺病にもかかわらず。

渡山 中学のときに肺病、肺炎で二週間近く入院してたんです。そのとき肺が苦しい感覚とかわかって、ああこうやって死んでいくのかと覚悟がついたのもあるんですけど。

斜田 エロゲの主人公の人生みたいだ。

渡山 でもモテてはいないからね。

斜田 ああ、じゃあ違いますね。

*****

 

渡山 コンタ君と僕は多少、腹を割って過去をずるずるっと引き出した感あるけど、文乃さんの過去に立ち入れなかったのは残念だね。

伊藤 ああ。

斜田 10時間くらい話したんですけど、過去の話なんもしてくれないんですよ。

渡山 マジで。

伊藤 なんか私、ATフィールドめっちゃ強いって言われていて。

渡山 強いんだ。

斜田 強いです。

伊藤 強いってか、今思うと、切り分けがものすごいのかなと。

渡山 はいはい。

伊藤 高校時代のことは高校の友だちと、みたいな。

渡山 演劇の人たちとは演劇の話でいいじゃないかと。

伊藤 そういう感じかもしれないです。

斜田 だから人間味みたいなのを出すのが、好きじゃないんですよ、きっと。

伊藤 それこそ他人から評価されない部分だと思ってるのかもしれないですね。

渡山 ふーん。

伊藤 プライベートが謎って言われるんですけど、プライベートとオフィシャルで分けるなら、会社とかがオフィシャルじゃねえのとは思うんですけど。演劇をプライベートでやってるのに、プライベートが謎と言われる、謎。

斜田 僕が知ってる文乃さんのプライベート情報は、家にインターネット回線がないこと。

伊藤 テレビもないよ。

渡山 ないの?

斜田 僕たちよりよほど作家みたいな生活してますよ。

伊藤 だってスマホあればいけるやん、てなっちゃって。

渡山 Wi-Fiもないんでしょ?

伊藤 ないです。

斜田 なんでこの情報を知ってるかと言うと、通し動画とかをyoutubeに上げるんです。次の稽古までに見ておいてくださいねみたいな感じで言うんですけど。

伊藤 見れなかったごめんってやって来るという。

斜田 テレビもないインターネットもない、家でなにをしてるんだと思ったら、本を読んでるって言われてお前の方がよっぽど作家じゃねえかって。

伊藤 ふふふ(笑い声)

斜田 お前が脚本を書け。

伊藤 本を読む時期と読まない時期があって、忙しくなってくると電車に乗って読めるか読めないかという。今ちょっと読めない時期。

渡山 まだまだ謎多き文乃さんですが。これから稽古をしていって、謎を暴いていけるのかって感じですね。

伊藤 こんなオチでいいのかよ。

斜田 大丈夫ですか、3人の対談、めちゃくちゃまとまりなかった気がしますけど。

伊藤 構成を捏造するしかない。

斜田 最後にまとめっぽいこと喋ります?

渡山 最終的には、コラボ企画両方観に来てねって、こっちの売りとそっちの売りを文乃さんが語っているみたいなていをつくって。

斜田 途中まで台本読んでるじゃないですか、そういえば。

伊藤 ああ、うん。

斜田 どうですか、共通点みたいな。2つ観るとおもしろいよ、みたいな話をなんとか捏造できないですか。

伊藤 共通点?!

渡山 共通点……。

伊藤 メルヘンとメンヘラってそんなに共通点あるか?

斜田 メンヘラはだいたいメルヘン好きですよ。

渡山 はははは(笑い声)本当?

伊藤 うーーーん、あれだね、あの、童話がテーマですよね、両方、確かに。グリム童話とアンデルセン。

斜田 はい。グリム童話とアンデルセン。

伊藤 あと、あの話したかった。未奈美さんと山川さん※12 も両方(星の女子さんと廃墟文藝部)出てるんやでって話をしたかった。広げる自信がなくて忘れてた。 

渡山 出てるね。今度は未奈美ちゃんと山川さんに聞いてみる?

伊藤 それ読みたい。

渡山 じゃあ『文乃に聞く』ありがとうございました。

伊藤斜田 ありがとうございました。

連載第3回 伊藤文乃×斜田章大×渡山博崇

『文乃に聞く』おしまい。

 

※1 星の女子さん⑩『トゥルムホッホ』に家賃にこだわったシーンがある。

※2 『RENT』アメリカのミュージカル。貧乏な若手アーティストたちの家賃(レント)を払う払わないの話。

※3 あいまいな記憶。

※4 廃墟文藝部 第参回本公演『小説家の檻』2016年9月上演。

※5 劇王11アジア大会参加作品『怪盗パン』(作・渡山博崇)廃墟文藝部『アナウメ』アフターイベントでも上演される。(演出・斜田章大)

※6 廃墟文藝部 第壱回本公演『MOON』2014年3月上演。

※7 廃墟文藝部 第弐回本公演『慾望の華』2015年8月上演。

※8 鳥公園新作戯曲リーディング試演会@名古屋(作・演出 西尾佳織)

※9 『よつばと!』(作 あずまきよひこ)月刊コミック電撃大王にて連載中。

※10 「劇団バッカスの水族館」名古屋で活動する劇団。

※11 はせひろいち。劇団ジャブジャブサーキット主宰。劇作家、演出家。

※12 元山未奈美、演劇組織KIMYO所属の女優。山川美咲、フリーの女優。

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